クラシックミステリー『名曲探偵アマデウス』事件ファイル#6 ドビュッシー「前奏曲集」~皿の上のミステリー~
クラシックミステリー『名曲探偵アマデウス』
事件ファイル#6 ドビュッシー「前奏曲集」~皿の上のミステリー~
新しい芸術が次々と生まれた19世紀末フランス。美術の世界では印象派が、光や色彩をとらえた、新しい絵画を生み出したように、ドビュッシーも、自らの感性がとらえた音を、それまでの音楽的常識を打ち破り、色彩豊かな、叙情的な響きを生み出しました。多彩な響きによって、クラシック音楽に新たな地平線を開いたドビュッシー・前奏曲集の秘密に迫ります。
依頼人は、フレンチレストランのシェフ。開店以来閑古鳥の鳴いている店を立て直そうと、フランスでの修行時代の師匠に相談したところ送られてきたメニューの謎を解いてほしい、と天出を訪ねてきました。
送られてきたメニューとは次のようなもの。
↓
前菜…風にそよぐ小船の帆
スープ…亜麻色の髪の乙女
メインディッシュ…音とかおりただよう夕暮れ
全てを鐘の音のごとく響かせよ
このメニューを見た天出は、ピンとひらめきます。これはドビュッシーの「前奏曲集第一巻」のことを言っている、と。そこでシェフの作った料理を試食しながら、それぞれの曲が持つ特長から、師匠が伝えたいことを推理していくことに。
まず前菜「2.帆」。全音音階による独特の響きで、浮遊感や終わらない感覚を表現しています。ドビュッシーはこの音階をパリ万博で耳にしたインドネシアの音楽をもとに思いついたのだとか。この曲から師匠の伝えたいことを考えると、常識や伝統にとらわれない斬新なものを作りなさいということだと、天出は推理するのでした。
次はスープ「8.亜麻色の髪の乙女」。変ト長調のこの曲、7音で構成されるべきところを5音で構成されています。スコットランド民謡でも用いられる音階ですが、日本の演歌・民謡でもよく用いられる、日本人の耳にもなじんだ音楽。単純な響きから生み出される多彩な音楽。ここから天出は、料理には足し算ばかりではなく引き算も必要なのだ…というメッセージが込められていると推理します。
そしてメインディッシュ「4.夕べの大気にただよう音とかおり」。音に表すことの難しい色彩や香りを、ドビュッシーは五感を研ぎ澄ませ、この曲の中で表現しています。ここから天出は、自分の感性を大切にしなさい、というメッセージを読み取るのでした。
最後に書かれた「すべてを鐘の音のごとく響かせよ」=「10.沈める寺」。神によって沈められた寺の伝説をモチーフに書かれた曲。左手で奏でる低音部分は、ペダルづかいでひとつひとつの音が微妙に混ざり合って、なんとも言えない不思議な響きです。ここから、依頼人の師匠は「ひとつひとつの料理が斬新さ、シンプルな中にある奥の深さ、そして自らの感性を大事にした、素晴らしいものであることは当然として、そのひとつひとつに調和が取れて、統一性があることも重要である」ということ、そして、伝統や固定観念にとらわれず新しいものを生み出そうとする努力…修行時代の必死さを思い出しなさいという…「初心忘れるべからず」というメッセージを、依頼人に示して見せた天出でした。
…ドビュッシーが活躍した時代、美術・音楽をはじめとした芸術の世界では、“印象派”と呼ばれる人々が、自らの感性を形にするべく、それまでの伝統的なものの殻を打ち破る努力を惜しみませんでした。そんな人々の心意気を感じさせられる回でした。
次回はモーツァルトのピアノ協奏曲です。ついに天才モーツァルトの登場ですね♪(意味不明…)。
天出臼夫…筧利夫
響カノン…黒川芽以
飛石蔵人…梶原善
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