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2008年7月15日 (火)

クラシックミステリー『名曲探偵アマデウス』事件ファイル♯9ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ“月光”」~狙われた花嫁~

Amadeus今回は、結婚式にベートーヴェンのピアノ・ソナタが関係する事件。

クラシックミステリー『名曲探偵アマデウス』
事件ファイル♯9
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ“月光”」~狙われた花嫁~

1801年、ベートーベン30歳の時の作品である「ピアノソナタ第14番嬰ハ短調“月光”」。当時ウィーンで卓越した演奏家、そして気鋭の作曲家として人気が高まっていたベートーヴェン。花嫁の元カレが、この、ウィーンの流行児だったベートーヴェンが最愛の女性にささげた名曲を通じて彼女に伝えようとしたメッセージとは?月光に秘められた謎に挑みます。


今回の依頼人は、花嫁さん。披露宴の直前、その会場で元カレがピアノを弾くことに気がつき、このまま弾かせてもいいものか?と相談にやってきます。…というか、どうでもいいことかもしれませんが、披露宴の内容を直前まで知らない(というか気づかない)花嫁さんって、あんまり居なさそうですよね…(笑)。
元カレが弾こうとしている曲は、結婚式の定番曲でもない、ベートーヴェンのピアノソナタ“月光”。きれいだけれどちょっと暗い印象のこの曲…それゆえ、花嫁としては不安に苛まれるわけですよね。しかも弾くのは、元カレ。

第1楽章、延々と繰り返される右手の三連符、メロディらしいメロディはないその繰り返しを、ベートーヴェンは第3楽章にも登場させています。そして、左手でドシラと一音ずつ下がる3つの音の動きは、第2楽章ではレドシと一音ずつ下がる3つの音の動きとして使われており、第1楽章と第2・3楽章の間に、そして曲全体に統一感を持たせています。
ひとつの単純なメロディを色々な形に変化させて使うという工夫、これはのちの交響曲にも繋がっていくもので…ベートーヴェンの音楽が完成されるきっかけともいうべき曲といえるわけです。
その、しつこいくらいのこだわりを見せるベートーヴェンに、「元カレと似ているわ…」と言い出す依頼人。なにか、だんだんと元カレがベートーヴェンの曲を選んだきっかけが見えてくるような気がしますが…第2楽章について、「ふたつの深淵のあいだに咲く花のよう」と評したリストの言葉が紹介されるくだりで「もしかして、元カレは披露宴で愛の告白を?」と花嫁の手を取り逃げ出す男…の寸劇(?)を披露する天出ですが、推理はまだ先へ(苦笑)。
…最後、第3楽章。“月光”という静かなタイトルからはかけ離れた、激しさをもつこの楽章。けれども意外なことに、強く弾くことを指示する記号f(フォルテ)は全体の2割ほどで、ほとんどが弱い音の指示であるp(ピアノ)。それが、sf(スフォルツァンド)というアクセント記号によって、強弱の絶妙な、小出しにされる爆発によってアクセントがつけられていること、そしてベートーヴェンはこの楽章で、焦燥感や苛立ち、苛立ちを抱えていることによって生まれ来る熱情のようなものを表そうとしているのではないか…ということが、ピアニスト・仲道郁代さんのお話から分かってきます。

…この曲が書かれた翌年、ベートーヴェンは“ハイリゲンシュタットの遺書”と呼ばれる文章を書いています。ここには、次第に悪化する耳疾と、伯爵令嬢との身分違いの恋に破れたことを理由に、自ら死を選ぼうとしたこと、しかしそんな自分を引き止めたのは芸術だったこと、そして自分の中にあるものを出し切るまでは死ねないのだ…という決意、これからの人生への意欲がしたためられています。
ここから…元カレがこの“月光”を弾こうとしたのは、花嫁となるかつての恋人に、これからは別の人生を生きていくことへの決意とともに、新しい人生に踏み出す花嫁へのはなむけの意味があるのだろう…との推理にたどり着くのでした。
元カレと別れ、別の人と結婚することにどこかで迷いのあった依頼人でしたが、この推理によって吹っ切れ、披露宴の会場へと戻っていくのでした…。

天出臼夫…筧利夫
響カノン…黒川芽以
曽名田ひかる…西尾まり

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